仮説の証明-後

その学生の証言では、7Fにはひとつの研究室だけが電気がついており、非常に目立ったという。

 証言<その部屋の窓から、下に落ちるというよりも、上に向かってジャンプし、そのまま見えなくなった。数秒するとドスっという地面を振るわせる鈍い音がした。>

 警察が不審に思ったのは死亡者の頭部の陥没と図書館に残された血痕である。その血痕は地上2m50ほどの高さに残されていること。頭部の陥没がこめかみより3cm上にあることである。

 捜査一課勤務7年目の太田警部によると、40m先の図書館には勢いをつけても7Fからは届かない。死因が落下によるものではないとして、図書館と頭部との接触によるものだとすると仏さん(警察による死亡者の隠語)は自ら頭部を図書館の壁にぶつけたことになる。脚立に乗って勢いよく頭をぶつけて無事(?)死ぬことができても、脚立は見当たらない。

 協力者がいたか?その力は100キロにも及ぶため3人がかりでやらなければ15cmの頭部陥没はありえない。もしそれが可能ならば、3人が仏さんを持ち上げて力の入れ具合は均等にしなければならない。まずもって無理であろうということである。

 他殺とも疑ったが、死亡者の担当教官A・Mは彼がノイローゼであったと伝えている。周りの学生もそれは認めている。

 捜査は簡単に打ち切られた。

 その3日後、研究室を整頓していた学生はTの未発表の論文を机の中から見つけた。

 「脳内出力と浮遊」という題名であった。論文は担当教官A・Mに手渡されたが、教官は一瞥し、リサイクルに回す紙の束の上に置いた。