旅恥20

 潮のかおりが自分の田舎を思い出させる。

 そこは2キロほど入り江になっており、その地形が高い波をおこしている原因となっている。一旦高くなった波はその状態のまま1キロ以上も落ちることはない。すごい迫力である。

 しかしながら僕にはサーフィンの趣味などない。その波を見ながらビールを飲むだけである。宿に泊まっているのはほとんどが白人のバックパッカーのサーファーである。好きなときにサーフィンをし、好きなときに卓球をする。

 卓球?そうなのです。なぜかこの宿には卓球台が備えられているのだ。宿の従業員も含め泊り客をも巻き込み全員が卓球に打ち込んでいる。時にはサーフィンに目もくれないで。

 卓球といえば僕も得意のひとつである。すごく仲間に入りたいのだがちょっと気後れしてしまう。卓球している客のそばを何度も通り過ぎ、声をかけられるのを待っている。非常にせつない。一言ぐらい声をかけてもいいものである。

 日本の「和」というものがわからないらしい。これだから白人はだめなんだよ。通り過ぎて24回目に僕のところに球が飛んできた。よし、チャンスだ!なんか言え!眼鏡をかけた男が僕に、

 やるかい。
 僕が?
 やったことあるかい?
 あるさ。東洋の魔人と言われてたんだよ
 じゃあ、勝負だ

 このインドネシアの末端にあるニアス島で、日本対アメリカ、つまり第3次世界大戦が繰り広げられることになった。このメンバーではドイツ人が一番うまい。ついでイタリア人である。このアメリカ人は人は良いが卓球に関しては中の下である。

 第2次世界大戦の屈辱をはらすときが来た。同盟国であったドイツ、イタリアがついている。最初のセットは何とか勝ち取った。久しぶりにやるのでコツを忘れていた。
 
 2セット目、なんとイタリア人が国連軍に寝返った。ムッソリーニめ。アメリカ人と交互に出場することになった。それならばこちらはドイツ人と同盟を組まねばなるまい。

 そうして世界大戦の火蓋は切って落とされた。我々同盟国が勝ったのは言うに及ぶまい。歴史が塗り変えられたのだ。万歳日本国!万歳独国