旅恥22

 乗り合いバスに間に合わせるため朝早く起きた。オランダ人の家族がチャーターしたもので便乗させてもらうことにした。通常のバスは半端じゃないほどの込みようで屋根にまで人が乗り、時々振り落とされるらしい。

 3時間の行程をその状態で移動するのはきついので倍のお金を払ってオランダ人家族のマイクロに乗せてもらった。

 多分マイクロを手配した現地の男は僕がお金を払ったとはこの家族に言っていないだろう。普通はチャーターしたこの家族に払うものだが現地の男の懐に入るところがどうもインドネシアらしいところだ。

 ひとつだけ気づいたのはこの国の人は謝らないことである。このチャーターの男も不手際があったが何もなかったような顔をしていた。

 それにメダンに向かうめちゃくちゃ込んでいる乗り合いタクシーのなかで赤ちゃんを抱えた女が隣に座っていた。この赤ちゃんは詰め込みの状態が不快らしく100m先まで聞こえるぐらい泣き叫んでいるがこの母親は平気な顔をしている。

 前に座っていた男が不平をこの母親に言っていたが、何が悪いという顔で対抗していた。しまいには赤ちゃんが吐いてしまった。半分ぐらい僕のTシャツにかかった。

 母親は一瞬驚いたがなにもなかったようにボロ切れで赤ちゃんの顔をふき始めた。終わるとそのボロ切れで僕のTシャツを無言でふき始めた。

 かたちだけの行為だったので僕が拒否するとなにも言わずに赤ちゃんにビスケットを与えだした。

 そういえば、マレーインドネシア語を少し習ったが謝罪の言葉を習っていないことに気づいた。マレーシアでは英語の I am sorry はなんども聞いたが、英語がほとんど通じないインドネシアでは謝罪すべきところでそのような言葉は聴かれなかった。

 モスリムの世界では謝罪の対象はアラーだけなのだろうか。文化の差といってしまえば簡単かもしれないが謝罪行為がないのはどうにも傲慢さを感じる。

 というわけでこの国から早く出たいと思うようになった。ふっかけてくる金額やがめつさはどの国よりも高かった。当然いい人もたくさんいた。それはちゃんと書いた。

 それを差し引いてもどこかしら笑顔のないこの地域の人の顔が印象に残っている。今回行ったスマトラとニアス島は津波でかなりの被害を受けている。特にニアス島に泊まった宿は海から近く完全に飲み込まれているだろう。

 その人たちには非常に気の毒とは思うがもうスマトラには行きたいとは思わない。しかし今回の津波などで亡くなったかたには安らかに眠っていただきたいと願う。