仕事のお話

 
 数年前にピアノの調律師の仕事をしている人と話をした。

 日本にあるピアノの数などたかが知れているのに、商売が成り立つのか聞いてみた。

 成り立つそうだ。いつにでも金持ちというものはいるようだ。

調律師は個人の商売ではなく、ピアノ製造企業の社員の一部門に調律があるそうだ。

 調律師という資格があるか。あるにはあるが、各企業が定めた資格設定で試験等が行われ、国家既定は特にはない。

 どんな人が調律部門に配属されるのか。様々だそうだ。音楽大学から就職した者、技術屋から配属された者、なかには営業から自ら進んで配属を願い出た者もいるそうだ。

 どんな苦労があるか。調律は通常、コンサート前に行われる。つまり夕方頃から行われるため、サービス残業的となる時間に始められる。そしてそのコンサートが終わるまでそこにいなければならないのだそうだ。

 面白い話を一つ頼んだ。社の研修としてスタンウェイ(世界一のピアノ製造元。車でいうロールスロイスか?)に見学にいったそうだ。

 そこでは皆が職人肌の人で、休憩に入るとピアノを囲んで歌いだしたそうだ。プロなみのピアノの弾き手でもあったそうである。みんな本当にピアノを愛していることがしみじみと感じられたそうである。

 それとは対照的に彼の勤める会社の製造現場ではどうかというと、休憩時間はピアノを囲まずに、将棋台を囲んでいたそうだ。魂は日常の細事に宿る。