恍惚

 以下は、ボクが以前に書いたものを加筆・修正したものである。


寓話にこんな話がある。
 サソリは川を渡って向こう岸に行きたかった。サソリにはヒレもなければエラもない。困ったサソリは目の前を気持ち良さそうに泳ぐカエルにたずねた。

 ねえ カエルさん 僕を向こう岸まで負ぶって連れて行ってくれませんか
 
 サソリさん そんなこと言って、負ぶった背をその鋭いハリで刺そうというのだね

 いえいえ、誓ってそのようなことはしませんよ

 信じられないな

 大丈夫ですよ 僕は泳げません そんなことしたら僕は溺れちゃいますよ

 それもそうだね じゃ、静かに乗ってね ゆっくりだよ

サソリは恐る恐るヌラつくカエルの背にのった。 

 サソリさん 大丈夫かい 落ちないでね

初めて渡る川の上でサソリは震えていた。
川の真ん中にさしかかる頃 カエルの背に激痛がはしった。
 
 サソリさん 刺さないって 刺さないって 言ったじゃないか

 ごめんよ カエルさん 刺そうと思って刺したんじゃないんです 僕はサソリなんです 刺さないわけにはいかないんです ごめんよ ごめんよ…

サソリをのせたカエルはみずなかをゆっくり沈んでいった。

サソリは何に震えていたのだろうか。