旅恥3

 
 フェリーに乗って数時間やっとのことで着いたメダンは真っ暗だった。夜中になっていた。まいったなあ。
 
 このような旅では宿は予約などしないで現地に着いてから探すものである。当然予約システムなどありはしない。その上、夜となっては泊まらせてくれない宿屋が多くなる。理由はいたって簡単、面倒だからである。客とのやり取り、パスポートのチェック、シャワーの元栓を開ける(安宿では夜になるとシャワーの元栓を閉める)など手間がかかるからである。それから客は必ず部屋を下見するからでもある。そうしないと電気の点かないなど不良な部屋に通される運命となる。

 フェリーを降りてすぐマレーシアのリンギからインドネシアのルピアに両替する。その頃のインドネシアの経済はボロボロでマレーの半分ぐらいの物価であった。10リンギが100ルピアになるので、お金が多すぎて財布に入りきらなかった。急にお金持ちになってしまった。

 入管である。その国で一番イヤな人間の集まるところである。お金を要求したり、無意味にかばんの中をのぞいたりしてムッツリ楽しんでいる。特に女性のかばんの中は熱心に探っている。僕は小さなかばんひとつで旅に出たのでかばんをまさぐられるのはかまわないが、あの無愛想な顔で睨まれるのはご免こうむりたい。

 しかし!なんっと、パスポートを見て日本人だと分かるとなんのチェックもないままスルーさせてくれた。そして、たわしヒゲの入管おやじが親切にもこの先にバスが停まっているからそれに乗るんだよ。声をかけられてもstraightだ。ok? straightにバスに乗るんだ。インドネシアには悪いヤツがたくさんいるから、と言ってくれた。 それから、
     Hey,Japan. Welcome toSumatora

 僕はまっすぐ、いやstraightにバスに乗り込んだ。入管でこんな清清しい気持ちになったのは始めてである。サイフに入りきれないお金を持って冷房の効いたバスのなかで幸せに包まれていた。

 この時にはメダンの街中であんな不幸にあうとは知る由もなかった。(これ前回も言っていたな)