旅恥4

 
 バスは大通りの何もないところに停まった。街中に停まると思っていたので宿を探すのが面倒だなと思った。バスが着いたとたんにシクロ(自転車タクシー)のおやじやらタクシーの運ちゃんやらが寄ってきた。バスを街中に止めずに何もないところに停めた理由がわかった。彼らからマージンをもらっているのだろう。

 僕は明るいほうに歩いていけば街に着けるだろうと2~3分歩いたが無理であることをさとった。見渡す限り何もなかった。しかたがないので戻ってシクロを捕まえようと思ったが既にシクロのすがたはなかった。まだ2,3人タクシーの運ちゃんと交渉しているバックパッカーがいたが、僕は疲れていたのでワゴンタクシーを見つけて乗った。ワゴンタクシーは若干普通のタクシーよりも安くなる。

 タクシーの中で待っていろと言われ中に入った。他の客を見つけているのだろう。しかし現地の人が4~5人乗り込んできた。僕は後部座席の奥に座っていたので外には出られない状態であった。

 しまった。全員一味だとわかった。タクシーは走り出した。助手席に座っている若い男がしきりに後ろに振り返って僕の隣に座っているボスに目配せしていた。すぐにでも降りたかったが下手をすると身包みをはがされるので様子を見るしかなかった。案の定、前金で交渉したタクシー代の3倍の料金を請求してきた。それに助手席の男がオレにおこずかいをくれと凄みをかけている。

 このような状況のときはボスに照準を合わせて交渉するしかない。助手席の男を完全に無視して、冷静に、料金が高すぎると主張した。とにかくこのタクシーを降りたかったので、お金を払った。お金を払うときはサイフを見られないように心がけた。どのお金がいくらなのか分からなかったが知っているフリをした(その国のお金に慣れるのに3日はかかり、物価になれるのは一週間かかる)。

 宿は街から遠く離れた暗いところだった。助手席の男が着いてきて宿の主となにやら話をしている。マージンの交渉である。客を連れてくると数%の謝礼がもらえる。泊まるのをここに決めてしまうとタクシー一味に付きまとわれるのでここはやめた。タクシー代はもう払ったのだから助手席男を帰らせたかったが男はしつこくなぜこの宿に泊まらないのかとせまった。

 宿から出て街まで歩こうと思ったがここもまわりには何もなく真っ暗だった。しかたがなくまたタクシーに乗って街まで連れて行ってくれるよう頼んだ。助手席男はボスに宿屋での顛末を鋭い口調で話していた。殴ってやりたかった。でもこんなところで死にたくなかったのでグッとこらえた。

 またお金を請求してきた。通常よりも高い料金はわかっていたが、払わないといえばどこかに連れて行かれるので交渉しながら街の光のあるところまで冷静に交渉した。お金は払うつもりだった。ただタイミングをはかっていた。タイミングは街の灯だ。 …… 続く