旅恥6

 
 案の定、フロントは寝ていた。僕はここは始めてであるが、いつもの部屋は空いている?と聞いた。ああ、すいません。ちょっとまってください、えーと、この部屋はokです、とフロント。成功だ。ただ部屋があるかと聞いただけでは断られるだけだ。野宿しなければならなくなる。

 部屋は角部屋だ。シャワー、トイレなし、扇風機あり。まあまあかな。東南アジアで必須なものは扇風機である。置いてある扇風機ではなく、天井ぶらさがりのやつである。これでマラリア(3日間ぐらい高熱を出して寝込んでしまい、最悪は死に到る)が防げる。マラリアを防ぐには、まず蚊取り線香(現地では「カトリ」で通じる)。カトリを2,3箇所に置く。二番目に天井扇風機である。蚊が扇風機の風で一箇所に留まっていられない。

 さっそくシャワーを浴びたい。2階の奥にある。最初にやらなければならないのはフロントをまた起こさなければならないことだ。深夜になるとシャワーの元栓を閉めてしまうからだ。配管の設備がめちゃくちゃに悪く、開けていると水道料金がかさむため、宿屋としてはなるべく閉めたいと考えるからだ。

 いつもと同じ部屋じゃないねと最初に言ってからシャワーの元栓お願いねと言うとフロントは飛び跳ねたように元栓を開けに行く。

 当然、水シャワーだ。体験してほしいが水シャワーを一週間浴びるとお湯のシャワーは気持ち悪くなる。お湯シャワーはヌルヌルしているように感じる。まるで油のシャワーを浴びているみたいである。ウソだけど。

 しかしながら熱帯地方とはいえ真夜中の水シャワーは非常に冷たい。水との戦いである。まだまだ日本人である。現地の人は朝起きると、沐浴(たらいにためた水を頭からかぶり、体を清める)する。彼らはその水の比較的ぬるい表面ではなく、冷たい底にある水を好んですくって浴びる。半端じゃなく冷たいですよ、これは。

 シャワーを浴びた後は空に飛ぶ気分になる。少しベッドの上でウトウトとしていると廊下が騒がしくなった。流暢な英語が聞こえるので白人だと分かる。現地の女性の声も聞こえる。多分どこからか連れてきたのだろう。値段交渉の合意が得られなかったのか男が騒いでいる。 

 アジア(日本も含めて)では白人は崇敬の対象ともなるが軽蔑の対象ともなる。かれは後者であろう。お店の金額ではなく女性に対してのチップのいざこざだ。一晩楽しむのだからはずんであげればいいのに、と半分魂が抜けた頭で考えているうちに気がつくと空が明るくなっていた。