Xに言われても構文

えーと、
         A「僕に言われても、困るな」

 上記の文はいかなる状況であろうか。話者に対してどうしようもないことを言われたときの発言だろうと思われるが、何か文法的におかしいことに気づかないだろうか。

 この文は受身文が使われている。受身文は与格(つまりA)にあたる人物が行為をする文である。下の文では与格である「弟」が食べたことになる。

        「弟にケーキを食べられた」

 しかし、Aの文では「言った」のがAではない。聞き手に当たる人物の発言である。文法的に言うと、

         A’「僕に言っても、困るな」

にしなければならないが、実際この「(話し手)ニ 受身+ても、困る」の形式は使われている。な~ぜ~

 「言われる/ネタを振られる/ボールを投げられる」ことが話し手にとって迷惑だという構文である。形態論的に「話し手ガ」とならなくてはならないが「話し手ニ」となっている。つまり聞き手の迷惑行為を受ける話し手(ニでマーク)と困る主体が同じだという矛盾があるわけである。

 これは文が合成されたと見ることができる。「(君が)僕に(言う。 僕が)言われても困る。」という2文の( )内を省略した形態である。話し手に向けられた方向性(話し手ニ)と被害受身(~ても困る)の合成だといえる。
      
         B「*僕に言われたよ。困るな」    

 ここで注意しなければいけないのはこの構文は受身文だけでは構文として成立しないことである。「~ても困る」のように話し手のマイナス評価が構文中に組み込まれていなければならない。Bの文は言ったのが話し手でない限り非文である。
 
 また、これはただ合成したのではなく、近接した構文を媒介にしたと考えられる。Cの「来る」がその媒介なったのかもしれない。

       C「僕の家に来られても、困るな」        

 これは仮説ですので、あしからず。ほんとのことは僕に聞かれても困ります。