夏(終)

 
 夏は初めと終わりが好きだ。暑さとはどんなものだったか思い出させてくれる初夏。何かやり残したことがあるようなアンニュイな気分にさせてくれる晩夏の風。でも、大体は特になにするわけでもなく夏は終わっていく。

 下の叔母ミサの家でうるさい、ほんとにうるさい虫の騒音のなかで眠っていた。叔母と母はまだ話をしていた。時々叔母の、だって…と言う声が聞こえた。

 寝苦しく目を開けたとき玄関先で人の気配がした。ドアが開いており老女が立っていた。黒っぽい和服を着て親しげに微笑んでいるようであった。僕は記憶にある知っている人のリストを探ったが該当者はいなかった。

 叔母も母もどうして玄関先に出て行かないのか不思議だった。僕はふとんから出たくなかったので早く叔母に気づいてほしかった。僕の知らない親戚だろう。老女が手招きしているように見えたので僕はフラフラとふとんから出て玄関先に向かった。

 玄関に近づいたとき、後ろから肩をつかまれた。振り返ると叔母だった。どこに行くのと聞いた。僕はとっさにトイレと言った。トイレはこっちよと違う方向に連れて行こうとした。僕は拒んだ。母は僕に外に行きたいのと聞いた。僕ははだしのまま外へ出て道を渡り茶畑で用を済ませた。

 母は僕の後ろで虫がいっぱいいるねと言った。そのとき騒音は虫の音に変わった。 

 翌日、葬式が行われた。山に登り、街をねり歩いた。僕は途中で疲れ、若い衆におんぶしてもらった。一緒にねり歩くのも嫌になり、あんみつ屋に連れて行ってもらった。

 ようやく葬式がはじまった。坊主が経を読み始めた。若い衆はみんな黒いはっぴを着ていた。上の伯母は若い衆を使っていろいろ世話をやいていた。大きな祭壇にはたくさんの花が飾ってあった。花の中に写真立てがある。古ぼけてすこしピンぼけの写真に老女の姿があった。来れなくてごめんねと母は手を合わせて泣いていた。