旅恥8

 飛ばす、飛ばす。豪速である。僕の乗ったワゴンタクシーは対向車などおかまいなしに突っ走る。どんなに細い道でも対向車をよけようとしない。対向車もギリギリまで除けようとはしない。もしここで事故ったら…やれやれ(村上春樹風)。

 彼らはプロである。事故など起こすことはありえない。しかし道の脇に約2キロ毎に車が横転している。ゾッとした。前日は大雨が降ったから道がぬかるんでいたらしい。運転手はプロである。それに今日は晴れている。大丈夫に決まっている。

 20キロぐらい飛ばしてタクシーは道の脇に止まった。横転している車の周りで数人が車を起こそうとしていた。タクシー運転手はそのうちの一人と話をした。その相手とは我々より2時間前に出発したワゴン車の運転手らしい。

 我が運転手は助けることもなく大笑いしてタクシーをスタートさせた。笑っていられるのか…。「明日はわが身」ということも考えず先ほどよりももっと加速をつけて走っている。自尊心に火がついたらしい。やれやれ…。

 僕は気にするのをやめた。横転したら横転したときだ。他の客はぜんぜん気にしていないようであった。まっぷたつに割れた車もあったが。

 
 隣に座っていた若者が話しかけてきた。君は日本人か。通常僕は知らない人に日本人かと聞かれたらNOということにしている。ここいらでは日本人イコール金満家である。あの手この手で金をせびろうとする。が、彼はどう見ても学生なのでYESにした。

 彼はジャカルタ大学の学生で、チャイニーズニューイヤーを利用して故郷に帰る途中であった。彼の友人は日本に留学している。彼も日本に来たかったがお金がなくジャカルタ大学に進んだそうである(それでも一般人の収入では難しい)。
 
 始めは日本に行きたかったが今は行かなくてよかったと思っているといった。日本に留学している友人から手紙が来て生活がとても大変だという。祖国に帰りたいと痛切に書いてあったそうだ。

 日本に留学するほとんどはその国で裕福な生活をおくっていた学生だ。お手伝いさんを雇っているような家族である(東南アジアでは裕福だとお手伝いを雇わなければいけないそうだ、日本の成金がベンツを持つようなものだ)。日本に来て初めて食事を作ったものも少なくない。同じものを半年ぐらい食べ続ける。そして男子の90%は激やせする。

 行かなかったほうがいいと僕も思う。ちょっと暑いが自然が豊富であるこの国を出る意味があろうか。濃厚なマンゴーの香り、天国の味・地獄の匂いのドリアン、ナシゴレン、ミゴレン、ナシカンダーなどなど、さらにビンタンビール(日本のビールなど目じゃない!)があれば生きては行ける。

 上記のものが食べたくなったので途中休憩のレストランの話に移る。が、それは次回で。今回盛り上がりなし。