旅恥10

 大学生の彼はトバ湖の2~3キロ前で先に降りた。タクシーのほうに振りかえるかなと思ったがサッサと行ってしまった。

 一応、トバ湖には着いたが、連絡船が見つからなかった。ふらふら湖沿いを歩いていると船が何艘か停泊していた。

 中をのぞいてみると男たちが車座に座っていた。ひとりが僕に気づき、慌てたように仲間に叫んだ。一時騒然となった。何人かが中央に置かれた白い粉を隠そうとしていた。毛むくじゃらの男が鋭い目で近寄ってきて Apa?(何だ!)と言った。

 僕は何も見ていないフリをしてサモシール、サモシールと言った。ほっとしたのか男は目元が緩み岸辺の先を指差した。それから日本人か聞いてきた。僕はすかさずハイ、ハイと答えた。少しでも怪しまれるとyabaiのでバカな観光客(本当にそうだけど)のフリをした。

 僕は礼を言ってそこを離れた。すこし歩くと数件みやげ物屋があった。そこで働いている女性の顔はマレー・インドネシア族のものとは違って、野性味を帯びた顔をしていた。

 さっきまで森の中に住んでいたような顔だった。閑散期なのか客もまばらで暇のようであった。女性たちは互いに対になって頭の蚤を取り合っていた。

インドネシアの田舎のほうでは第二次大戦ぐらいまではほとんどの女性は裸であった。服を着だしたのもつい最近である。

 連絡船が見えた。近くで若い男たちが数十人でたむろっていた。僕を見るといいカモと思ったのか声をかけてくる。やれやれ。お前ら、女の子が働いてんだから働けよ!と言いたかった。

 暖かい国では男は昼日中何もせずにたむろっていて、女が一生懸命働いていることが多い。ここもご他聞にもれず子どもがそのまま大人になったようなのがウヨウヨいる。不景気も重なってのことだろう。働くとしたら闇の仕事しかないのか。 

 とにかく船に乗ったが、ここにもいた。ねえ、どこ泊まるの?、おもしろい遊び場知っているよ。女要らない?などなど。そんななかで数枚の写真を持って僕の後ろのほうに立っている若者がいた。せいぜい15か16ぐらいだろう。恥ずかしいのか声をかけられないでいるらしい。

 僕は彼に手招きした。彼は一瞬ピクっとしたが、ゆっくりこっちにやって来た。客探してるの? yes.  Brapa? 4000.   Aroーi! non good room good room
ほんとに? yes!  OK… 泊まることに決めた。 これで彼はいくらのマージンがもらえるのだろう。