旅恥11

船のなかで彼は遠慮しているのかずっと立っていた。僕は少しずれて席をあけた。

 座んなよ。 
 No,ok.  
 いいから。  強引に座らせた。 彼は無表情で座った。
 この仕事楽しい? バカな質問をしてしまった。
 Yes
 ほんとに?
 彼はニヤ笑いをした。 

 本当にバカな質問をした。どんな仕事をしようが人の勝手だろう。
 
 兄弟いるの?
 兄がいる
 一緒の仕事?
 ううん、マレーシア  
 そう
 
 彼の兄はマレーシアに出稼ぎに行ったのだろう。マレーシアは同じ言語を話す国だが、マハティールや中国系華僑のおかげで経済成長が続き建設ラッシュがあいつぎインドネシア人の一番の出稼ぎ地区になっている。そして、マレーシアでは最近インドネシアバングラディッシュからの出稼ぎが増えている。


 彼も兄と同じ歳になったら出稼ぎに行くだろう。下層の仕事に従事するために。休みは一ヶ月に1,2回で、建築現場から離れてはいけない。逃げないように建築現場では柵がめぐらされている場合がある。

 3,4ヶ月ずっとこもってビルを建て続ける。ビルが建てばそれで終わり。運がよければ違う現場に回される。ほとんどが帰国し、出稼ぎの順番の一番後ろに回る。
 
 ここはどうだい?  初めて彼から話した。
 いいところのようだね。  彼は初めて笑った。  

ガルーダの国旗が風にたなびいている。