えーと、あのー

 人が発話をする場合、言語情報のみを発しているわけではない。例えば、
 あのー、すみませんが、富山駅はどこですか?  という発話は「富山駅はどこか」という内容(命題)に聞き手が答えてくれるよう頼んだものである。

 では「すみません」はなにか。「あなたに迷惑をかけるかもしれない」という予告をしていると考えられる。「~が」があることで以下の発話がその対象となることを明示しているといえる。

 それでは「あのー」はなんであろうか。一般的に「あのー」「えー」「えーと」「まー」などはフィラーと呼ばれている。日本の言語学では、以前はこれらのコトバは埋め草的なコトバと解し、隅に追いやられていた。

 海外での語用論によるフィラーの扱いは日本の言語学の世界とは全く違い、コミュニケーションにおいて重要であることを認めている。

 要するに、日本の言語学では「馬」や「歩く」や「赤い」などはイメージできるが「あのー」や「えーと」はイメージできないので研究の対象とはしない。本質的にはなりえず、周辺的な侠雑物にすぎないという考えであったようだ。

 しかし、フィラーは概念(そのコトバの対象がイメージできるもの)をコード化(コトバから意味理解できるようにすること)していないが、手続き的意味(コトバの操り方)をコード化している。

 「あのー」「えーと」「えー」などのフィラーは手続き的な意味があり、発話の操作を言語化しているのである。「あのー」は聞き手に聞くことの準備をさせること指示しているとも考えられるし、「あのー」を言っている間に聞き手に準備をしてもらう間(ま)であるともいえる。

 「えーと」は話者が自分の脳からコトバを取り出しているサインである。そして「えー」はそれを言うことによりコトバ取り出しを早めようとしているとも、吟味しているともいえることを聞き手に伝えている。

 よって、「えーと」は話者の頭の中で完結することなので聞き手がいなくてもよい。一方「あのー」
「えー」は聞き手に対して発せられるものである。

 〔独り言で〕えーと/*あのー どこやったっけ、あの本。

 また、子供がみんなの目で何かを言わされるとき、

えっとー僕は~~ / *あのー、僕は~~

というのも興味深い。