恐怖の信号

 1、信号が赤くなりました。渡りましょう

 上の文はどうもおかしい。ホラー映画に出てきそうだ。

 2、信号が赤になりました。渡りましょう。

 「赤く」と「赤」の違いは形容詞の連用形と名詞の違いである。形容詞とは字のごとくありさまや様子を表すのが本義である。「なる」は変化することである。

 で、「赤くなる」とは「青色のありさまから赤くなる」ことであり、「赤になる」は「青色から赤にバトンタッチした」ことを表す。

 「信号が赤くなる」は信号そのものが赤く染まることを表すので違和感をおぼえる。

 上の例は実際に日本語学習者が使ったコトバで、何かおかしいとずっと気にかけていたものである。

日本人が当たり前に使っているコトバが実はしっかりと意味分類が進んでおり、日本語学習者の間違いはその分類をもう一度考え直す機会を与えてくれる。

 3、先生と話していると気持ちがいいです。

 上の文は中国人学習者の発話である。マッサージをしながら会話をしているのでもない。「気持ちがいい」は中国語の訳ではかなり緩い使用領域なので「うれしい」「たのしい」「気分がいい」などの日本語とほぼ重なる。

 また「気持ちが良い」の反対は「気持ちが悪い」かというと、そうともいえない。

 「気持ちが悪い」は酒の飲みすぎで吐きそうだという意味もあるが、ヘビを見て「わあ、もう見たくない」というような対象物の「ブキミさ」にも使われる。つまり「気持ちの悪いモノを見た」という意味になる。

 こういうマメ知識的なことは学習者からの発想や意見から出されることが多い。だから、答えがわかっているものも一度学習者に尋ねると非常に面白い有用な視点が得られることがある。