誤用のしじし

 指示詞というのは意外と奥深いものである。その使用法は大きく分けて現場指示、文脈指示、観念指示の3つがある。

 現場指示とは話者と聞き手の物理的な指示で、主に目に見える対象を指示する。

 1)それ取って

(1)では目に見える「それ」、つまり聞き手の領域にあたる物を指している。簡単そうに見えるが、中国人学習者は(2)のような誤用をする。

 2)<電話で>A:こちらはいい天気だよ。あちらはどう?(聞き手の場所の天気)

 中国語は這(これ)、那(それ/あれ)の2系統で話者から遠ければ那が選ばれる。話し手から聞き手が見えればソ系を使うと理解されるが聞き手が見えない電話などでは話者からの距離だけで判断しア系を使ってしまう。
        
 文脈指示とは、書かれたものの照応と呼ばれるもので、同じ言葉を繰り返すのを避けるために用いられるとされる。

 3)幸せとは何か?それは不幸をさける手段に過ぎない。

(3)の「それ」は「幸せ」だけを指しているのではなく、「幸せとは何か」全部を指している。

 指示詞が2つの系統しかない日本語学習者は、

 4)*幸せとは何か?これは不幸をさける手段に過ぎない。

のように「これ」を使用してしまう間違いが多い。

 観念指示とは話者の頭の中に描かれた(表示された)対象を指示する場合に使われる。

 5)昨日、あれからどうなりました?

 (5)では話者、聞き手両方が共有知識として持っている情報を「あれ」で指し示している。聞き手が知らないことはア系では指示できない。

 6)友達の李さん、*あの人はいい人よ

 上の例のような間違いは非常に学習者に多い。また、コ系の間違いも見られる。コ系の間違いの場合は話題の人(李さん)が話者の領域の人なので使ってしまうものである。

 このような(そのような?)誤用を見つけだすのが日本語教師の務めなのである。 御用だ!御用だ!(誤用だ誤用だ)