さざなみ

 学校が終わるといつものように友だちと海へ行った。

 ダムを作ったり、カニをとったり、火をおこして流木を燃やしたりして暗くなるまで遊んだ。

 家に帰る頃には下着までビチョビチョだった。怒られるとわかっていても毎日のように濡れたまま帰った。
 
 夕食の用意をしている母親に顔だけを出して、

 ねえ、怒る?
 え?
 怒る? と怒らないという確証をもらって家に入るのだが、

 何!毎日そんなに服を汚して来て、誰が洗うと思ってんの! と叱られた。

 その日もいつものように頭の先まで濡れて帰った。しかし、家の様子がいつものと違っていた。母は夕食の準備をしていなかった。台所の椅子に座り、うつ伏せになっていた。

 ねえ、怒る? と言うと、母はボクが入ってきたのを気付かなかったのか、ハッとこちらを見た。

 ねえ、怒る?

 母は少し斜め横を向いて、またこちらを見て、

 ううん と静かな声で答えた。そして、おもむろに立ち上がり、ボクの手をとって海まで連れて行った。

 波打ち際でボクをオブって海に歩をすすめた。なぜ海に入るのかわからなかった。いつも濡れて帰ってくるので、その罰なのではと思った。

 クビぐらいまで浸かったとき母は立ち止まった。波が少し高かったので時々顔に波しぶきがかかった。母は泣いていたのかもしれない。

 帰ろう とボクが言うと、
 帰りたい? と母が言った。ウン

 ゆっくりと引き返した。

 晩ご飯、何食べたい? 少し母の声が元気になった。