帰ってきたサブロウ

 老人ホームに入って既に10年になる。ワシより後に入ってきたものは次々と死んでいく。

 何のためにではなく、死を待つために生きている。日々中途半端な楽しさで過ぎていく。

 まだ長生きしても悪くはないが、今の生活が本当の生活だとは思えない。毎回違ったボランティアが次々とホームに来て、死を忘れさせてくれる。

 彼女たち(近郊の団地の主婦なのだろう)が帰ってから食事となる。

 特に食べたいものなどない。ここの食事はまずくもないがうまくもない。夕食後はNHKを見て、眠くなったら寝る。寝られなかったら…、最近寝られなくなってきた。

 それで夜中に散歩に出る。ヘルパーにばれないように裏口からコソっと。

 毎回違う道を歩いているが、それほど多くない道なので1週間に一回は同じ道を通る。そうか。一週間に半分は夜中の散歩をしているのか。

  暗い電球のしたにゴミが照らし出されている。ん?少し動いた。

 犬か。それにしても汚い犬だなあ。寂しくないのかな。ポケットに入っていた飴を犬に放り投げる。

 汚い犬は興味なさそうにまたうずくまる。ピーナッツを持ってくればよかった。確か帽子の置いてある机の上にあったんだけどな。残念。

 この気持ちはボランティア主婦と同じ気持ちなのかなあ。次の散歩はポケットにピーナッツを入れておこう。そうしよう。