Mくん

 小さい川に時々鴨が泳ぎにくるのを石を投げて撃退し、怒られていた時分の話。

 ボクたちはよくMくんのうちへ行った.Mくん家はけっこう裕福なところで、遊びに行くとMくんのお母さんがケーキやお菓子などをご馳走してくれた。

 当時、ケーキなど誕生日ぐらいにしか食べたことがなかったので、この家のお金持ち度がよく分かった。

 その日はMくんのお母さんがいなくておやつが食べられなかった。貧乏であったボクたちは大変残念に思った。ひとりがあからさまに残念がった。

 Mくんは、じゃあ、お菓子を買いに行こうと言って台所の方に何かを取りに行った。

 戻ってきたMくんの手に一万円札が一枚あった。ボクたちはつばを飲み込んでしまった。

 一万円札を見るのは初めてではないが使うのは初めてだった。Mくん以外はみんな興奮していた。

 いざ、お金があるとそんなに買えないものである。結局、ポテトチップス2袋を買ったのみだった。

 そして、店の前に座り込み、車座になってポテトチップスの袋を開けた。みんな遠慮してMくんから先に食べてもらった。

 Mくんが一枚食べるとみんないっせいに食べ始めた。

 何してんの    Mくんのおかあさんだった。

Mくんが急にお菓子を隠そうとした。M君の不審な行動はお母さんに伝わり、お金はどうしたのと聞いてきた。

 拾ったんだよ

 いつもやさしいMくんのお母さんの顔は真っ赤になり、Mくんに平手打ちをした。ボクたちは口をあけてみているだけだった。

 ほんとだよ! と言ってMくんは泣き出した。いやがるMくんを無理やり手を引いて家に連れていった。引きずられるようにMくんは消えていった。

 ボクたちはまだ口をあけてMくんの家を見つめていた。