落ち武者が出るような山あいで(前)

 久しぶりに旅に出た。

 ほとんど知られていないローカル線に乗った。

 一両編成でワンマン(車掌がいない)である。

 一番前から二番目の席に座った。前には老夫婦が座った。

 おばさん(お婆ちゃん?)の方が尋常じゃないはしゃぎかたをしていた。

 夫婦かと思ったが、そうじゃないように思えてきた。

 もしかして常連客とスナックのママ?

 男性のほうがどうも乗り気じゃない。まあ、その女性のはしゃぎに付き合うのに疲れたのかもしれないが。

 あっ、あれ見て!すっごーい。何なに、あれ!! と言いながら女性は男性に顔をぴったりとくっ付けるかのように顔を近づける。

 しかし、男性はウウンと言ってずっと前を見ている。店で見るママはきれいに見えるが、さすが日のもとに晒されると幻滅したのだろうか。そして今夜のことも頭がよぎり、汗が…

 そして彼女もそんな男の微妙な変化に気づき、何とか気をひこうとしているように見える。もちろんそれは逆効果となっているが。

 そのはしゃぎようは他から見ていても痛々しい。年老いた像の曲芸を見せられているような感じで見ていられない。

 しまいにはその女は男の肩の上に頭を置いた。男は一瞬ビクッとして固くなった。

 というのが外からの眺めであったが実はこの二人はそういう関係ではなかった。これからふたりのこの旅行までの経緯を話さなければなるまい。 
 
             -つづく-