ノターリ・クラーノはこの街に住んでいる。といっても駅前がねぐらである。ようするにフローシャである。歳は50そこそこか。この定位置のまえにはどこにいたのか誰も知らない。
そんな彼がいつの間にやら冷蔵庫をダンボールでこしらえた部屋のとなりに置いていた。彼は買ってきたと言っていたが拾ってでも来たのだろう。電気は点くらしく駅構内の電気を無断で拝借しているようだ。
彼はとなりの住人、カモークンに冷蔵庫で冷やした水はエビアンよりうまいとか、リンゴは冷蔵庫に丸一日入れておいたほうがおいしいなどと自慢している。カモークンは聞いているような聞いていないような。
何日かしてノターリは湯沸かし器を冷蔵庫の上においていた。オカマのタマールに今度使わせてやるといっていたらしい。
近くで待ち合わせしている若者は不思議そうに冷蔵庫と湯沸かし器をのぞいている。ノターリは盗まれやしないかと湯沸かし器ののっている冷蔵庫の前に座って所有を主張しているかのようである。
それからノターリは湯沸かし器ののっている冷蔵庫の前から離れなくなった。ある夜中、カモークンはノターリが嘆き叫んでいるのを長い時間聞いた。
それがノターリの最期だった。