夏(中)

 奥の部屋には祖母がねむっていた。明日葬式である。ここでは古いしきたりがまだ残っており,遺体を一端山に運び山の神にお祈りしてから街をねり歩くのである。

 上の伯母は明日の葬式にわざわざまた来なくていいからここに泊まればと言っていたが母は下の叔母ミサの家に泊まることにした。僕はちょっとホッとした。上の伯母は何に対しても独断で決めるタイプで周りを困らせた。数年前、母の葬式のときも仕切ろうとして父を悩ませていた。

 叔母のミサの家はゆるい坂道の中間にあり道を挟んで茶畑が広がっていた。周りには一軒も家がなく叔母は隠れるようにここに住んでいた。母はミサちゃん静かなところに住んでいるのねと言うと叔母は寂しく微笑んでいた。

 テレビを置いていないので夕食後は何もすることがなかった。やたら虫の音がうるさく不思議だった。どこかにコンセントがありプラグを抜けば音が消えればいいと思った。叔母は何もないでしょうと言った。

 叔母は結婚したがすぐに離婚した。相手が刑務所に行ったからだ。叔母は僕とお風呂に入りたがった。僕は母としか入ったことがなかったのでちょっと躊躇した。叔母はいいなあ、ねえちゃん、吉雄がいて、と母に言った。

 服を脱いだ叔母はとても白い肌をしていた。僕は見とれていたらしく何見てんの、と叔母は笑った。今でもその白い肌が夢に出てくる。そして白い肌の女性を見れば叔母を思い出す。

 湯につかりながら叔母はヨッちゃん、大きくなったら何になるのと聞いた。僕はわからんと言った。大人になったら女の子泣かしちゃだめだよ、喜ばせる男にならなきゃ、と僕を抱きしめた。抱きしめられながら僕は彼女の肌の感触は母のとは違うなと思った。

 湯から上がると母は一人でお酒を飲んでいた。その日母はやたら冗舌だった。僕はそんな母がいやだったので寝ることにした。夜中目が覚めるとまだ母と叔母は話をしていた。ふたりの前には一升瓶が置いてあった。  …続く