トバ湖から100mぐらい離れたところに赤土でけぶった広場がある。そこがバス停だ。いくつかバスが停まっている。ニアス島に行く港行きのバスがどれか分からなかったので運転手に聞いて回った。
何代目かの運転手はこのバスだと言った。そしてお前は日本人か?といつもの質問をした。僕はウッカリ Yehと言ってしまった。実際の料金より数倍の金額を払わされた。
日本円にすると微々たるものだがなぜか腹がたってくる。ボラれるのは常日頃あるがそれが分かる度に裏切られたような気持ちになる。
通路にまで人を乗せてバスは出発した。僕は窮屈な体勢で通路に座っていた。座席に座っていた3歳ぐらいの女の子はみんなと肌の色が違う僕が気になるらしく母親にしきりに何か言っていた。
気になるのは女の子だけではなかった。前に座っているオヤジもチラチラこちらを見ている。後ろの座席に座っている女性が英語で話しかけてきた。英語が話せるのを周りの乗客に自慢するかのように。
日本人か?
そうだよ
東京から来たのか?
そうだよ
インドネシアはどうか?
いいところだね、ヒト意外は
彼女はインドネシア語でどんな会話をしたのかみんなに大声で話している。一気に周りに伝播し他の乗客が彼女に色々質問し、それを僕にぶつける。
日本はいいところか?
どうしてここにいる?
昼ごはんを食べたのか?
結婚しているのか?
等……
次々と脈絡のない質問を僕は答えなければならなかった。東南アジアを旅していると必ず出る質問が「結婚しているか?」である。Noと答えると「どうして?」と言って欠陥のある男だとレッテルを貼られる。
この欠陥のある日本人未婚男性は目的地に着くまで芸能人に群がるレポータがするような質問を次々と答えなければならなかった。めでたしめでたし