海のホタル1

 中学3年の夏、野球部最後の大会だ。とても暑い日だった。

 0対0の最終回、バッターが打ったボールが僕のいるライトに飛んできた。僕はこのまま延長戦になるものだと思っていたので、完全に慌ててしまった。なんとかボールをとってファーストへ。ボールはショートバウンド。ファーストはボールがとれず、セカンドにいたランナーがホームへ帰り、セットとなった。僕のせいだ。もう野球はやらない…

 秋になってだいぶんすずしくなった。友人たちは学校が終わると後輩の練習を見にいったが僕は隠れるようにして帰った。夏の大会で負けたとき友人全員に謝った。みんなはしかたがないよと言った。それが僕を傷つけた。なにやってんだよと言ってくれたほうがどんなに良かったか。

 雨の日以外はすぐに家に帰らずコーラを買って海にいった。小学校から野球をやり始める前まではいつも海で遊んでいた。服をびしょびしょにぬらして帰りよく母に怒られたものだ。

 今日はコーラが売り切れでファンタを買った。フワフワした味でまずかった。いつもは誰もいない海にカップルがいた。遊ぶところがすくない田舎ではカップルは喫茶店に行くか彼氏の家に行くか海に行く。選択権が非常に少ない。

 高校生のカップルかと思ったが男のほうは私服で女のほうは当時にしては珍しく髪を薄く染めていた。そういえば防波堤のところに赤い外車が停まっていたのを思い出した。

 カップルはじゃれあっていた。話している声は聞きなれない方言だった。カップルは飽きてきたらしく僕が座っている脇の道から帰ろうとした。そのとき男がこちらをずっと見ていた。僕はやっかいなことになるんじゃないかと知らないフリをした。

 男はいきなり、義男か?と僕のほうに言った。

自分の名前を呼ばれ驚いた。

 オレだよ。オレ。義男元気か?

誰か分からなかった。

 マサオだよ。忘れたか?

半そでTシャツから刺青が見え隠れしていた。静岡の叔父だった。