或る日常Ⅱ

 1時間ほどでユウヤが取り出された。すぐに赤ちゃんのたくさんいる部屋に連れて行かれた。どうやら姉も無事だったようだ。

 この時はまだ名前がついていなかった。初めて名前を聞いたとき、なんだ、それ?と思った。姉の名前も夫の名前も全く入っていなかったからだ。なんかこしゃくな名前だ。だから1年ぐらいは僕は名前を呼ばなかった。

 赤ちゃんというのはみんな同じ顔をしているのかと思ったがその部屋の赤ちゃんはみんな違った。小さいのやら大きいのやらうるさいのやら…とにかくこのころから個性というものが現れるのを知った。

 しかしながら、そこのいる赤ちゃんの共通していることはどれもが赤いことである。だから「赤ちゃん」と言うのかと感心した。視覚は物事の判断を左右するのが証明された。

 ユウヤはほかの赤ちゃんよりは大きかった。300gだか3000gだかあるらしい。基本的には肉の塊りのようだ。でも、僕の甥っ子である。もし、もしも、今火事が起こったら僕は迷わず、ほかの赤ちゃんは無視してユウヤを救うだろう。

 でも…そんなにかわいいとは思えなかった。看護婦Fさんはしきりにかわいいわねーと言っていたが、何がどうかわいいのかわからなかった。

 でも…その部屋にいるユウヤを見てると飽きなかった。少し動いただけでもoh動いたと思った。ずっと見ているとヘンタイおやじかと思われるかと思い、姉は夫にまかせ家に帰った。

 家に帰ると食べるものがキャベツしかなかった。しかたがないので4日間キャベツを食べた。無理かなと思ったが結構続けられた。体からイモムシのにおいがした。姉に早く帰ってくれないかなと願った。