旅恥7

 暑さで目が覚めた。11時を過ぎていた。こういうところではチェックイン/アウトがいいかげんなので延滞料をとられることはない。

 今日も無意味にいい天気だ。水シャワーで頭をすっきりさせる。最初の20秒は熱いお湯がでるので要注意だ。シャワー用のタンクが日光で温められ熱湯に変わるからである。

 長距離バス乗り場を聞く。目指すはトバ湖である。掃除をしていた男が案内してくれた。バス乗り場は歩いて10分のところにあった。バスの発車は1時間後であった。彼は帰るのかなと思ったが待合室で待っていた僕のとなりに座った。コーラを2本持っていた。1本差し出されたので1本分のお金を彼に渡した。最初拒んでいたが受けとった。

 仕事は大丈夫か聞いたが大丈夫だと言って僕にタバコを差し出した。東南アジアや中近東ではタバコを分け与えるのが礼儀となっている。当然差し出されたほうは受け取らないと非礼になる。

 彼はローズホテルのオーナーの娘の婿にあたる。つまりマスオさんである。仕事をするでもない、しないでもないという生活をしているらしい。僕はうらやましいなあと言ったが、Noと言って下を向いた。君のほうがうらやましいよ。

 彼は生活に困ることはないが毎日が退屈だと言った。彼には夢があり、海外をいろいろ見て回りたいと言った。自分はまだ若いので生活の安定より冒険をしたい。でも、女房は近々子供が生まれる。だから生活に縛られてしまう。日本にはどうやったら行ける?口添えしてもらえるか?僕はなにも言えなかった。

 漠然とした夢で日本に来た者のほとんどが現実とのギャップに驚き、日本の底辺の仕事に追われる。そんな生活に嫌気がさし、帰国してバリなどのリゾートで一攫千金を狙う。彼ももう少し若かったら同じ道を歩もうとしたかもしれない。しかし今の彼はそれは夢であることを知っている。

 30分遅れてバスが来た。バスといってもワゴン車である。運転手が休みも取れやしないと不満をキップ売りの若い女の子に言っていた。

 マスオさんは僕の乗ったワゴン車が見えなくなるまでずっと見送っていた。彼のかなわない夢を見とどけるかように。